東宝/モノクロ・スタンダード/62分
昭和32年7月2日公開
(同時上映「忘却の花びら・完結編」)
(解説)
──静岡の茶畑で働く千代は歌が上手な村の人気者。しかし茶農家にも時代の波が押し寄せ、昔気質の頑固者である千代の父・礼吉は新しい品種に植え替える必要を感じながらも、貧しさから資金繰りもままならず、やせ我慢の一徹を通していた。
ある日、千代は姉のように慕う茶問屋の娘・道子のいとこで、商船学校に通う秀雄と出会い、将来の夢や幸福について語り合ううちにほのかな想いを寄せるようになる。一方、道子は家族の反対を押し切って愛する男性のもとへ。それを知った秀雄は千代のことを考え練習航海を終えたら会いに来ると約束するが、そんな時、礼吉が倒れて寝たきりになってしまう……。
人気歌手・島倉千代子の『東京の人さようなら』に続く主演作で、扇千景が演じる道子を中心にした姉妹編『お姉さんと呼んだ人』とは相互に補完するストーリーになっている。前作と同様、主題歌・挿入歌以外にも「茶摘み」「われは海の子」などの童謡・唱歌が随所に流れる歌謡映画で、淡いラブロマンスの要素もあるが、千代の一家の窮状を救うことになる道子やその父親(裕福な茶問屋の隠居)といった善意の人々が織りなす温かな家族ドラマである。
宣伝用スチールより、海を見下ろす丘の上の千代(島倉千代子)と秀雄(大塚国夫)。下は松原で有名な三保の海岸での撮影風景
静岡の茶問屋・井上商店のセットにて演出中の本多監督。左端が店の主人で道子の兄・達夫役の平田昭彦
出演
島倉千代子
扇千景
太刀川洋一
平田昭彦
大塚国夫
北川町子
小杉義男
山田巳之助
三條利喜江
津山路子
本間文子
花村菊江
加藤雅夫
他
千代と村の青年たちのリーダー格で千代に好意を抱いている三吉(太刀川洋一)
千代や妻とめ(本間文子)の心配をよそに、礼吉(小杉義男)は新種の茶への転換を勧める三吉の説得にも耳を貸さない