東宝/モノクロ・スタンダード/95分
昭和32年2月19日公開
(解説)
──海運会社に勤める若尾久夫は支店長の娘との縁談を断り、かねて結婚するならと心に決めていた同僚の清水雅子に思い切ってプロポーズする。同じように若尾に好意を持っていた雅子は喜ぶが、厳格な雅子の父は、貧しい音楽家と駆け落ち同然に結婚した長女の千津子のことが許せず、過ちを繰り返させまいと頑なに若尾との結婚に反対する。
父親と衝突して家を出た雅子は姉の千津子やその夫・俊夫たちの応援もあって、若尾とともにつつましい新婚生活を始めたが、出世コースを外れた若尾は自分の代わりに支店長の後を継いだ元同僚とトラブルになり会社を辞めることに。雅子に内緒で仕事探しに奔走しても再就職はままならず、苛立ちをつのらせた若尾と自分が働きに出るという雅子はとうとう喧嘩をしてしまう……。
娘の幸せを願って厳しい態度をとる父親、間に立って心配する母親、妻に負担をかけまいと失業したことを隠す夫……。誰もがお互いを思いやりながら、すれ違ってしまう心と心。そのわだかまりが、それぞれの善意によって解きほぐされ和解へとたどるまでをサラリーマン社会の裏側や不景気だった当時の世相を交えて描いた、ビタースィートな一編。本作の芯の通った人物描写を見ると、怪獣の脅威や地球の危機といった非日常と市民のささやかな日常のドラマとが、本多監督のなかでまったく等価だったことが理解できる。
豪快なヒーローを演じることの多い三船敏郎が、小さな楽団のホルン奏者という意外な役柄で助演しているのも注目。妻の尻に敷かれながらも義兄として、人生の先輩として主人公二人を励ます大人の男を自然体で演じている。「港へ来た男」の新沼といい「太平洋の鷲」の友永大尉といい、本多作品のミフネはいつも繊細で優しいキャラクターである。
演出中の本多監督とヒロイン・雅子役の白川由美、その同僚・今井愛子役の小泉澄子(右も同じ)
映画を見てお汁粉を食べて、夕食はラーメン。若い二人の微笑ましいデートシーン
出演
小泉博
白川由美
三船敏郎
津島恵子
藤原釜足
清川玉枝
夏川静枝
志村喬
田島義文
藤木悠
笈川武夫
小泉澄子
如月寛多
英百合子
他
ホルンの「結婚行進曲」で二人の門出を祝う俊夫たち。後ろで別の新婚夫婦がいっしょに祝福している演出が楽しい
若尾が下宿している畳屋の夫婦(藤原釜足、清川玉枝)は仲人を買って出る。藤原釜足は初期の本多作品の常連で、常に主人公をサポートするキーマン的存在を演じている
勝ち気な千津子を演じた津島恵子は「七人の侍」(ヒロイン・志乃役)をはじめ数々の名作に出演。NHKの朝ドラや大河ドラマなどで息の長い活躍を続けた