東宝/モノクロ・スタンダード/99分
昭和26年8月3日公開
映画監督として劇場映画第一回作品。
二年前の文化映画「伊勢志摩」の長期ロケを通じてここ伊勢志摩に暮らす人々の人間模様、自然の美しさに感銘し、時を同じくして山田克郎氏の直木賞作品「海の廃園」との出会いがこの作品のスタートである。
八年間の軍隊生活をしてきた本多猪四郎監督、周囲の目は期待よりも心配と不安が大きかったと聞いている。
作品内容もさることながらキャメラが初めて水中に沈められた事も画期的な出来事であった。
この作品の舞台、伊勢志摩はその美しさと、神秘さに見せられた監督によって多くの映画作品の舞台となる。
(解説)
志摩半島の小さな島。海女たちの働きで支えられている貧しい漁村に、灯台職員兼教師の西田が赴任してきた。
村一番の海女である野枝は、誠実で優しい西田に思いを寄せ、やがて二人は愛し合うようになるが、よそ者との結婚を許さない村の因習に阻まれてしまう。
さらに、都会への夢破れて帰ってきた海女仲間のリウが、何かと比較される野枝に反感を抱き、西田を奪おうとあらぬ噂を立てて邪魔をする。
野枝はリウと決着をつけるため、恋を成就させるという伝説の真珠が眠る海底の井戸をめざして、海女の腕比べを挑むのだが……。
記録映画「伊勢志摩」の経験を生かし、水中撮影をドラマの重要な要素に組み込んだ劇場映画デビュー作。自然と文明の葛藤、対照的な二人のヒロイン、極限状況で試される信頼と誠意、滅びゆく者へのシンパシー等々、本多作品の共通主題がすでに見られる。
主演女優二人の野性的な魅力に加えて、西田を見守る父親のような灯台長役の志村喬、野枝の許婚者の複雑な心情を表現した柳谷寛の助演が印象的。なお、村祭りのシーンでは「ゴジラ」の大戸島と同じ神楽(実際に地元に伝わる舞楽)が登場する。
海女たちを乗せた舟を前にスタッフに指示を出す本多監督。撮影は三重県の伊勢地方で行われた
奔放なリウの行動は西田たちを困惑させ、野枝の心をかき乱した
海岸での撮影風景。自らロケハンを重ねた本多監督の入魂の演出が続く
出演
池部良
島崎雪子
浜田百合子
志村喬
山本礼三郎
高堂国典
柳谷寛
左卜全
英百合子
本間文子
三好栄子
大城政子
桑原澄子
廣瀬嘉子
記平佳枝
五十嵐知子
秋葉米子
出雲八重子
馬野都留子
堺左千夫
大村千吉
石井伊吉
近藤宏
他
台本を手にシーンの説明をする本多監督。地元のエキストラも多数出演
巨大な真珠貝が眠る大日井戸で、恋を賭けた女の戦いが繰り広げられる
海女たちを演出中の本多監督。パーマヘアの女性がリウ役の浜田百合子