おえんさん / O-en-San

1955年
東宝/モノクロ・スタンダード/100分
昭和30年6月7日公開

映画「おえんさん」についての解説

──威勢のいい競りの声が響く築地の中央卸売市場。魚卸「兼松」を切り盛りする仲買人の松山えんは、中年ながら持ち前の美貌と気っぷの良さで魚河岸の名物といわれる人気者だった。夫を亡くして二十年、一人息子・広志の成長を楽しみに働いてきたえんだが、その広志が食堂の娘・珠子と結婚することになり、自分が認めた相手との縁談ながら息子を奪われるような寂しさを感じ始める。
そんな時、広志が土地を買って珠子と二人で住む新居の計画を進めていることを知ったえんは、勝手に不動産屋を追い返したばかりか、珠子の親代わりである姉夫婦に結婚の延期を申し出てしまった。自分を大事にしてくれるあまり、無分別な行動に出る母親と恋人の板挟みになって頭を抱える広志。魚河岸の仲間たちも巻き込んで事態がどんどんこじれていくなか、えんのもとにかつての恋人でブラジル移民として成功した谷が訪ねてくる……。

日本の大衆演劇を支えた「新派」の名女優、水谷八重子(初代)主演の人情ドラマ。映画『ジャンケン娘』などの原作者で新派とも関係の深い劇作家・小説家の中野実の作品をもとに、お互いを思いやる母と息子の愛情がふとしたことからすれ違い、周囲に波紋を及ぼしていく様をユーモアを交え、ウェットになりすぎない絶妙なバランスで描いている。
太平洋戦争を境にした新旧世代の葛藤は本多作品の重要なモチーフの一つだが、素直になれないえんを説得する谷の〝自分の轍を貴方の息子に踏ませたくない〟というロジックは『海底軍艦』で愛国心に呪縛された父に向けた神宮司真琴の願いとも重なり合っている。

広志(小泉博)と珠子(司葉子)、
二人を応援する珠子の義兄・徳五郎(藤原釜足)
パンフレットの表紙にも使われた
宣伝用スチールより、勝ち気な江戸っ子気質の
母親を演じる水谷八重子を挟んで
東宝を代表する美人女優・司葉子、
本多作品の常連で一般映画でも
重要な役が多い小泉博
えんの姉・光江(清川玉枝)と谷(清水将夫)の
再会シーンを演出中の本多監督

Staff

製作   田中友幸
脚本   橋本忍
監督   本多猪四郎
撮影   山田一夫
美術監督 北猛夫
美術   阿久根巌
録音   宮崎正信
照明   大沼正喜
音楽   古関裕而
応援監督 小田基義
監督助手 小松幹雄
特殊技術 円谷英二
     渡辺明
     向山宏

出演 水谷八重子
   小泉博
   司葉子
   藤原釜足
   清水将夫
   清川玉枝
   中北千枝子
   山本廉
   堤康久
   

中山豊
中村是好
十朱久雄
林家正蔵
佐田豊
宇野晃司
馬野都留子
広瀬正一

製作       本木荘二郎
脚本       橋本忍
監督       本多猪四郎
撮影       山田一夫
美術監督     北猛夫
美術       阿久根巌
録音       宮崎正信
照明       大沼正喜
音楽       古関裕而
応援監督     小田基義
監督助手     小松幹雄
特殊技術     円谷英二
         渡辺明
         向山宏

出演       水谷八重子
         小泉博
         司葉子
         藤原釜足
         清水将夫
         清川玉枝
         中北千枝子
         山本廉
         堤康久
         中山豊
         中村是好
         十朱久雄
         林家正蔵
         佐田豊
         宇野晃司
         馬野都留子
         広瀬正一
         他

光江は偶然再会した谷をえんの家に案内する。
谷とえんは親の反対で別れた過去のいきさつがあった
えんと広志が落語を聴きに来る鈴本演芸場での演出風景
広志は母が自分のために
ダンスを習っていることを知って驚く。
中央はキザなダンス教師役の宇野晃司。
「出稽古の帰りなんでざんすよ」の迷台詞が楽しい
ポスターの素材にもなった宣伝用スチール